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  田辺大根で新年会

C「本日の献立について」 ホテル阪神「花座」 料理長 門睦視


 大阪・北浜の老舗「花外楼」で、伴 周三氏に師事。表千家、裏千家ともの茶事を経験し、茶の湯の心とともに「熱いものは熱く、冷たいものは冷たく。」という料理に対する心構えを、また、窯元で轆轤を回すことから勉強し、細部にまでこだわった器づかいを身につける。ザ・リッツカールトン大阪の日本料理店 副料理長を経て、ホテル阪神へ。伝統的な日本料理の技法や茶懐石をベースに、フランス料理・中国料理の素材を取り入れて創作料理にも取り組む。

開催日が1月15日で新年会ということで、お正月料理も意識し結び紅白麩に黒豆寄せ玉子、子持ち子若昆布に、蒸し物として黒豚と田辺大根を酒粕で煮込むポトフ風も献立に取り入れ、花びら餅を意識したお菓子で締めくくるなど、献立を参照しながら紹介。


D「 田辺大根新春会席 」 会食  

 膳盛り


  大根松前押し さごし
  黄身酢掛け 千社唐
  黒豆寄せ玉子
  子持ち若布 鯛みじん粉 干し子
  ねじり梅 蕗 木の芽
  汁物 卸し汁
  焼餅 鴨 占地茸
  結び紅白麩 鶯采 柚子
  雪花蒸し
  鰆達磨掛け 若菜餡掛け 山葵


 田辺大根の序曲のような膳盛り。春を呼ぶ桜模様の小箱のような器の中には小さく盛られた正月のおせち料理を彷彿とさせる子持ち若布に、めでたい鯛のみじん粉卸し煮に黒豆寄せ玉子の上にねじり梅に木の芽の香りに蕗が春を待ちわびる。

 小手まりの可愛い器の蓋をあけると大根松前押しに卵黄酢賭けが、回り続ける独楽の輪を描く器には、雪花蒸し。花に見だてたタラの身の上に大根おろしがうっすらと雪化粧。

 更に椀物が運ばれてくると、あけた蓋のには、結び紅白麩が新年を寿ぎ、朝日のような黄色い柚子の皮が初日の出のように輝く。大根おろしと上品なおだしに芳しい柚子が きりっとした味わいを浮き上がらせる。器と共に一口大の食材が鎮座しているどれも繊細な細工が施されており、宝箱に箸を入れるようなワクワク感一杯。



膳物3品
 

膳物雪花蒸

 焼き物


  豚みんち射込み大根
  夢しずく風味バターソース
  三色野菜 蓮根煎餅

 両手の平を大きく広げたかの器の中央に輪切りの大根をくり貫き豚みんちを詰め込まれみ焼き上げた上に、 蓮根の噴水のような形状の煎餅に青梗菜に赤と黄色のピーマンが添えられ、薄味の透明のバターソースが薄口で優しい。



焼き物
 蓋物


  風呂吹き大根柚子味噌風味
  鱶鰭餡かけ 焼き穴子
  大根葉胡麻風味

 田辺大根の特徴は、青々とした葉っぱ。青首大根のように葉の裏にざらざらの毛がなく、舌に当らない以上に、生でも食べることができる大根葉の 上にかけれた胡麻タレが香り豊か。風呂吹き大根の上には焼き穴子に柚子味噌がたっぷりとかけられ、がっちりとした器に包まれた一品。


蓋物
 組み合わせ肴

   ●散らしすし
    大根酢漬 車海老 椎茸
    金糸玉子 うすい豆 いくら

   ●紅白大根餅(道明寺)油焼き

  
●みぞれ掛け
    鰆 叩き木の芽




組み合わせ肴


  新年を寿ぐ鼓の快い音色が響くような器の上に、車えびに金糸玉子にいくらとうすい豆、木の芽も芳しく、 紅白の大根餅が緑の色も鮮やかな緑葉に鎮座し、小さな器に小口の鰆の身に葉を刻んだ大根おろしをあしらって色良く並べられている。

 運ばれた肴を前に、女性からは「まぁ、お雛さんみたいやわぁ。可愛い!」と声が上がり、男性からは「これでまた美味しい日本酒が飲める!」と いう声が上がる。暫く料理を目で楽しんで、箸をゆっくりと降ろす。流石にこのような手のかかった料理に向かい合うと、皆んな上品に箸が上り下りし、 小口に運んだ料理を大事に味わうと、梅の花のように思わず笑顔もほころぶばかり。

 蒸し物


   酒粕風煮込み
    
黒豚 大根 蒟蒻 七味

 兵庫県立大学の三井教授に紹介いただいた淡路島岩屋のいかなごの魚醤油『夢しずく』をべ−スに寒いこの時期に体が温まるよう酒糟で黒豚と大根、蒟蒻を煮込んだ和風ポトフ。

 食材を楽しめるように大振りにカットされた黒豚は柔らかく、大根はお出汁を吸い込み、七味もピリッとして、更に体をあたためる厳冬を乗り切る料理。


蒸し物
 ご飯


   大根炊き込みご飯
   刻み筍 笹牛蒡 若鶏
   大根葉

  漬物
 三種盛り
   大根一夜漬け 赤蕪

 おちょぼ口で手間のかかった板前さんの職人技を活かした少しづつ堪能している間にお腹もほどよく膨れ、大根の炊き込みご飯へ。 刻み筍の香りが口いっぱいの広がり、若鶏に牛蒡も薄味のだし汁で炊き上げられ、目にも鮮やかな大根葉の青々として、シャキシャキとした歯ざわりが嬉しい。 漬物も薄味で、大根と赤蕪が器の中で紅白の彩を添えている。


御飯と漬物
 お菓子


 花弁大根餅
   粒あん 干し柿バター 人参甘煮 金箔

 今まで味わったことがない感動のお菓子。「日本料理の板前ですから、お菓子は苦手で少し不揃いかもしれませんが」との門料理長の言葉は何のその。 ちょっとしたお菓子屋さんよりも美味しい正に生菓子。小正月に合せた花弁大根餅。口の中で人参の甘煮と干し柿バターが粒あんと絶妙なハーモニーを奏で、 白いお餅の上に大根おろしが薄い紅色に染められ小さいボンボリが鎮座。その上に金粉が飾られ、目に鮮やな上に大根おろしがさっぱりと甘さを包み込む。

 お菓子を口にした参加者どうしが目を合せる度に頬に手をやり「あぁ 美味しい!」の大合唱。 今まで食べたことが無い感触と美味しさに、この世の菓子ではなく絵皿に描かれた桃源卿の食べ物かと思うほど絶品!


菓子

田辺大根をいただいて

 料理長が料理人としてその技を惜しげもなく田辺大根に注ぎ、お姫様に使える従者のように手数を惜しまず豪華絢爛なる十二単衣で包み器に盛り、目で舌で楽しませていただいた。

 四季の移ろいと共に生きた日本人の心のひだを写しとった日本料理の数々に感動しきりだった。料理人という職人さんの思いにも感激した。

 豊かな食文化を持った日本人に生まれ、大阪の地元の野菜・田辺大根を通しこのような情緒豊かな料理を味わえたのはとても幸せなことだと感じることもできた。

 コンビニばかりで餌のように食事する子供たちにも、日本料理に託されてきた本物の日本人の心の豊かさを味わってもらえれば、これは贅沢なことではないかもしれないと 思い、食育という意味からも大切ではないかと思った。本物はきっと年齢や男女・国境に関わらず言葉が分からずとも誰にも通じ、日本料理という文化を通して、世界の人々の心に潤いを与えることができるだろうと思った。しかし、世界の前に先ず日本人が培ってきた文化の豊かさの価値を認識しないとと思うことしきりだし、自戒の念も込めて仕事と熟塾というの二足の草鞋を履いての修行を続けているのかもしれない。

 今回の企画でも、沢山の人々のお力を借りて本物の日本人の心、大阪人の心を田辺大根の料理を通して深く味わうことが出来たことに感謝したい。 (原田彰子 )

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